ある家族から親亡き後の財産管理の相談を受けたことからすべてが始まりました。そこには、どんなに親が財産を持っていようが、解決できない問題がありました。それは障がい者が幸せな人生を送るための社会との接点ともいえる働く場所の問題です。障がい者の親御さんが思い悩む、親亡き後の不安は計り知れません。その不安の解消には残される障がい者が安心して暮らせるだけの金銭的ゆとりだけではなく、障がい者の一人一人が人から感謝されながらお仕事で活躍して、そのお仕事の対価として健常者と同等なお給料を得ることではないでしょうか?しかしながら、障がい者の程度は様々なこともあり、健常者と同等なお給料を得る仕事を見つけることは難しいのが現実でした。
そこで、障がい者の芸術的センスを活かせる「人様のお名前を描く」仕事を考案しました。障がい者には依頼者の顔写真を見てもらい、その依頼者をイメージして描いてもらいます。依頼者ご自身のお名前ならば、自分自身の芸術として愛情をもって下さるのではないかと思ったのが始まりです。このお名前フォントは、お名刺や印鑑、オンラインミーティング背景などで、ご活用して頂いています。そうすると、障がい者は「誰のために?何のために?なぜ仕事をしているのか?」を理解してくれるようにもなりました。
NPO法人設立前の任意団体の頃から、就労継続支援事業所での職業訓練が正規雇用されたときのお給料のベースとなるように、お名前フォント使用者が支払ってくれる毎月のサブスクリプション使用料を障がい者が所属している就労継続支援事業所に振り込み、毎月の工賃アップに寄与させてもらっていました。そして障がい者が正規雇用された暁には、その障がい者を雇用する企業に毎月のサブスクリプション使用料を振り込みますので、障がい者を正規雇用する際のお給料の補助にして頂くことができます。
とても重要なことですが、決して障がい者個人にお名前フォント使用者のサブスクリプション使用料を振り込むことはいたしません。なぜならば、障がい者の不労所得ではなく、正規雇用を促進することが目的だからです。ですので、就労継続支援事業所や一般企業での労働ではなく、アルバイトや引き籠りの状態になってしまった場合には、就労継続支援事業所や一般企業へのサブスクリプション使用料の振り込みは停止されます。
今後の取り組みとしては、描くことが得意でない障がい者だからこそ価値があるお仕事を数多く生み出し続けることだと思っています。そんなとき、ある障がい者がお手本を「なぞり描き」したことが大きな閃きとなり「なぞり描きお名前フォント」を考案いたしました。障がい者のお仕事は画一的な単純作業が多いとされますが、その場合は規格を外れると不良品と見なされます。これでは、障がい者の個性が発揮されるはずもありません。しかし、この「なぞり描きお名前フォント」は本来の字から程よく外れた方が個性が発揮されることを発見しました。この「なぞり描きお名前フォント」を考案したことにより、描くことが得意な特定の障がい者だけではなく、より多くの障がい者の支援が可能となり、さらには、より多くの企業で障がい者が活躍できるお仕事の創出にまで貢献できるようになりました。
このように、障がい者雇用の促進のため、お名前フォントの使用料を何十年以上も管理する必要があり、また振込手数料や諸経費を除いて基本的に使用料の全額を障がい者のお給料に還元したいと考えているために、非営利であるNPO法人の設立が最適であるとの結論に至りました。
「障がい者の一人一人が人から感謝されながらお仕事で活躍して、そのお仕事の対価として健常者と同等なお給料を得る」そんな世の中を実現するために、ここに設立趣旨書を書き留めます。
NPO法人 障がい者給与補助機構
設立代表者 田中 旭